エピソード1「幸せになる方法」

 
ダンダン!!ダンダン!!!
 
いつもの音で、目が覚めた。

アーシャは足を鳴らしてぼくを起こす。

ごはんをもらうために。
 

犬なら吠えればいいのに・・・。

うさぎみたいに足で床をダンダン!!と踏み鳴らすんだ。
 

ぼくはのっそりとベットの上に座った。

太陽の光が眩しい。
 

「そうか。昨日はカーテンを開けたまま寝たんだね。

おはよう、アーシャ。君の前世はうさぎかい?」
 

ぼくは笑いながらアーシャの頭をそっとなで・・・ようとしてアーシャに後退りされた。

いつものこと。

アーシャは撫でようとすると逃げるんだ。

撫でて欲しいときは自分から来るのだけど。

人に媚びない犬。それがアーシャだ。
 

『おはよう、優くん。』
 

ん・・・??

ん・・・??

え・・・??
 

『おはよう、優くん。ぼくの声が聞こえる?』
 

ぼくは部屋を見まわした。

この部屋には、ぼくとアーシャしかいない。
 

『ぼくだよ。アーシャだよ。』
 

え???アーシャがしゃべってる??

ぼくはじーっとアーシャを見た。
 

「アーシャ、しゃべってるの・・・?」
 

ぼくの声は震えていた。

 
『しゃべっているわけではないんだよ。

優くんにしかぼくの声は聞こえない。

優くんはぼくの言葉を感じとっているんだよ。

テレパシーのようなものだね。』
 

言われてみれば不思議な感覚だった。

頭の中に言葉が置かれるような・・・

内側からわきあがってくるような感覚。
 

『あとね、ぼくの前世はうさぎではないよ。ぼくは、ずっとぼくだよ。』

「え?え?夢?」

『これは夢ではないよ。』

「そんな・・・。」

『昨日ね、お月さまにお願いしたんだよ。』

「お月さま?」
 
『少しの間でもいいから、優くんと言葉で通じ合いたいって。

そしたらね、お月さまは言ってくれたんだ。

「今日、満月で特別な日だしね、いーよ!」って。』
 

お月さまのノリが軽い。

そもそも、お月さまって願い事を叶えてくれるものなの?
 

『優くん、そろそろ、ごはんくれない?』
 
アーシャは、ドックフードのある場所へと歩いて行った。

テテテテ。
 
アーシャが歩くとテテテテと可愛らしい足音が鳴る。

爪が床に触れる音。

小さな生き物が歩く、愛おしい音。
 
『はやく、優くん。

ぼく、お腹がぺこぺこなんだ。』
 
「う、うん。」

『今日、ドックフード、多めにしてくれない?』

「・・・ダメ。」

『ケチ』
 
とりあえずぼくは、アーシャにごはんをあげることにした。
 
エピソード1つづく
 
<読んでくださる皆さまへ>

「」=優が話しています。

『』=アーシャが話しています。