エピソード5-2「感情は人参と奇跡は気付くもの」

 

『あ!!!!おかあしゃんだ!!!玄関にいる!おかーしゃーん』

 

わん!わん!わん!

 

お母さんにはアーシャの言葉が

いつもの鳴き声に聞こえているようだ。

 

アーシャはお母さんがだいすきでお母さんにだけは甘える。

しっぽというか、お尻をぶんぶん横に振っている。

耳を後ろにたたんで、全身で喜びを表現している。

 

「お母さん何しているの?」

 

『あ、優、お散歩ありがとね。

人参の種を蒔いていたんだよ。』

 

「そうだったんだ。」

 

『散歩から帰ってきておかあしゃんに会えるなんて

ぼくは世界一、幸福な犬だな。』

 

「お母さんはいつも家にいるんだから、会えるのは当たり前でしょ。

アーシャは大袈裟だよ。

ほら、家に入る前に手を拭いてあげる。」

 

『当たり前なんてないよ。

毎日が、奇跡の連続だよ。』

 

濡らしたタオルでアーシャの手を拭きながら、ぼくは首を傾げた。

 

『ぼくはね、こんなふうに考えているんだよ。

 

ぼくにとっては毎日が奇跡。

この家族のもとにきて幸せ。

家族みんなのことが大好き。

毎日、当たり前に目が覚めて、家族も当たり前に目が覚めてる。

そういう毎日に奇跡を感じる。

 
毎日、ごはんもおやつももらえて

お散歩だって行ってもらえる。

ぼくは幸せものだ。』

 

アーシャの「考え」を聞いていたら

ぼくまで良い気分になってきた。

 

『優くん、人生でいちばん大切なことはね、

今この瞬間、目の前に散りばめられている

奇跡に気付き、それに喜び、感謝することだよ。

 

それはね、気付こうとしなければ気付けないんだ。

「この世界は奇跡で満ちている」

という前提で見ないと見ることもできない。』

 

不思議と、ぼくの目の前が輝いて見えた。

いつもの家の玄関なのに、ここに帰ってこれる日々を奇跡なのだと感じた。