エピソード6「波動ってなんなの?」
木々に囲まれたこのカフェは、ぼくとアーシャのお気に入りの場所。
休日によく訪れる。
図書館に隣接されている木造りのカフェ。
木々の隙間から優しくこぼれ落ちる太陽の光が、建物に模様をつくっている。
図書館に隣接をされているということもあり、本を読みながらゆっくりと過ごす人が多い。
珈琲と子供用のジュース、そしてサンドイッチにケーキなどの軽食を食べることができる。
店内にもテラス席にも、お客さんがぱらぱらと座っている。
テラス席は子供連れの家族や犬を連れた人が座っていた。
ぼくとアーシャも、いつも通りテラス席に座った。
カフェに来ると、ぼくは心がうきうきとする。
ささやかな非日常を味わうことができるのが、嬉しいのだ。
『ぼく、カフェにこれて嬉しい。』
アーシャの尻尾がピーンと背中のほうにそりかえっている。
これは、嬉しいときの尻尾。
アーシャの嬉しそうな姿を見て、ぼくも嬉しい気持ちになった。
『嬉しいことは、「嬉しいー」ってたくさん感じたいし、味わいたいんだ。』
「ぼくも嬉しいよ。
アーシャ、なに頼もうか?」
机に置いてあったメニューを一緒にみる。
『いつもの生クリームが食べたい!!!』
生クリームが大好きなアーシャ。
いつも、ぼくの頼んだロールケーキの生クリームを少し分けてあげる。
お腹を壊すから、たくさんは食べれないけど・・。
「すみませーん。
ブレンド珈琲とロールケーキを1つ。
あと犬ようの水もください。」
「かしこまりました。」
と言って、女性の店員さんはアーシャにニコっと笑いかけた。
髪を後ろの下のほうでひとつにゆるく束ねていて、前髪は眉毛の上。
お化粧は薄く、やわらかい雰囲気がこのカフェに馴染んでいる。
ふと、この前の散歩中に出会った小さなカエルのことを思い出した。
家の近くの道路にいた、小さな灰色のカエル。
ぼくとアーシャが近づくと、そのカエルは大きくジャンプして必死に草むらへと逃げ込んだ。
ぼくは幼い頃からカエルが好きで、もういちどカエルの姿を見ようと追いかけた。
そのカエルは、自分が草むらの色に馴染んでいると思い込んでいるようだった。
じっと、草むらで息を潜めている。
ぼくらが近づいてきても気付かれていないと思い込んでいるのか、決してそこから動こうとしなかった。
でも、草むらの色は緑色。
小さなカエルの色は灰色。
カエルは草むらの色に馴染めていなかった。
どちらかというと道路のコンクリートの色に似ている気がするけど。
まぁ、道路は車が通るから、草むらの方が安全だね。
ぼくは気付いていないふりをして、アーシャとの散歩に戻った。
『あの店員さん、可愛いよね。
雰囲気も優しくて、ぼく、好きだな。』
アーシャに声をかけられて我にかえったぼくは、もういちど店員さんを見た。
「そうだね、いつも素敵な雰囲気だよね。」
『きっと、このカフェで働くことが喜びなんだね。
楽しいんだね。好きなんだね。』
「どうして、そう思うの?」
『優くんもさっき、良い雰囲気だねって言ったでしょ?
あの店員さんは、ポジティブな波動を放っているんだよ。
ぼくらのポジティブな波動と店員さんのポジティブな波動が共鳴したんだ。』
「波動?」
『うん。
すべての人が波動をもっているよ。
優くんも今この瞬間も波動を放っている。』
「ぼくも?」
『そうだよ。
今は嬉しい気分でしょ?
だから嬉しいポジティブな波動を放っているね。』
「波動ってなんなの?」
『波動は目には見えないエネルギーで
波動の存在は量子力学でも証明されている。
この宇宙にあるすべてのものは波動をもっているんだ。
人にも
物にも
食べ物にも
飲み物にも
自然にも
言葉にも
行動にも
感情にも
思考にも
波動は宿っているんだよ。
そして、人が「経験」することや
その人の「現実」にも波動は宿っているんだ。
ただ、もっている波動はみんな同じではないんだよ。
発する波動は、それぞれ違う。』
「不思議だな。」
『不思議だけど、本当なんだから信じるしかないよ。』
「なんか、強引だな。」
『話を進めるね。』
「難しい話が進んでいくんだな。」
『優くん、難しくないんだよ。
この世界、宇宙にあるすべてのものは「波動」をもっている。
それだけのことなんだよ。
難しく考えないで、そのままを受けとめようとしてみて。』
「・・・はい。」
『その波動はね磁石のような性質をもっている。
同じような波動は共鳴し合う。
同じような波動をもったものは集まり
違う波動をもったものは離れていく。』