エピソード8「波動の仕組み 世界にある悲しいニュースや見たくない現実」

 
ぼくとアーシャは珈琲豆とスコーンを購入してカフェを後にした。

このカフェに来た次の日の朝ごはんは、いつもスコーンを食べる。

甘すぎない素朴な味のスコーンをサラダと一緒に食べるのが好きなのだ。

 

スコーンという食べ物は、ぽそぽそとしていて、口のなかの水分を奪っていく。

「スコーンのね、口のなかの水分を奪っていく感じが好きなの。」

そう言いながらスコーンを頬張る友人の顔を思いだして、クスッと笑ってしまった。

ぼくは「変なの」って言ったけど、本当は、少しだけその気持ちが分かる気がした。

だいぶ前の記憶だ。

 

『ふんふんふん♪』

 

助手席に座って窓の外を見ながらアーシャが鼻歌を歌っている。

ラジオからオー・シャンゼリゼが流れていて、ラジオに合わせて一緒に歌っているようだった。

ぼくはアーシャの鼻歌に合わせて、ハンドルを握る手の人差し指でトントンとリズムをとった。

 

ご機嫌なアーシャ。

ロールケーキが美味しかったんだろうな。

アーシャが嬉しそうで、ぼくも嬉しくなった。
 

しばらくしてラジオからニュースが流れ始めた。

ぼくの意識はニュースへと向いた。

流れてくるニュースは悲しいものばかり。

少しずつ、ぼくの気持ちは沈んでいった。

 

「アーシャ、どうしてこの世界には悲しいことがあるんだろう。」

 

『だいたいのニュースが人の気持ちを悲しみや怒りに染めていくものだね。』

 

「人を殺める事件が頻繁にニュースで流れる。

それだけじゃない。

この世界はおかしいよ。

戦争が起こっている国があったり、

貧しくてごはんを食べることができない人もいる。

それに・・・」

 

ぼくは見たくない現実があった。

言葉にするのも辛い。

でも、どうしても聞きたかったんだ。

 

「それに、動物だって辛いことばかりされている。

タロちゃんのように、途中で捨てられてしまう犬や猫もいる。

ペットショップで売れ残った動物がどうなるか知っているでしょ?

値段をつけられて、売り物にされて、売れ残ったら殺処分をされるんだ。

今この瞬間も殺処分をされている動物たちがいる。

人間に酷い実験をされている動物たちもいる。

森林を破壊された動物たちは苦しんでいる。

 

人間は最低だ。

動物たちには感情だってあるんだ。

恐怖心も不安も苦しみも感じるんだ。

 

動物だって、寝ているとき、夢を見るんだよ。

人間のように。

それなのに、動物を傷つけてなんとも思わない人もいる。

 

でも、ぼくだって、なにもできない。

ひどいことをしている人たちと同じ。

 

いつの日か動物たちを救いたいんだ。

どんなに動物が苦しんでいるのかを多くの人に知ってもらう。

 

動物たちを傷つけることや森林を破壊すること。

その全てに反対をして動物を救うんだ。」

 

ぼくは興奮していた。

呼吸が荒くなり、目はぎらぎらとしていた。

 

『優くん。』

 

アーシャが静かな声で、ぼくの名前を読んだ。

 

『優くん、今はどんな気持ち?

良い気持ち?心地良い気持ち?』