エピソード14「人の本質は青空のようなもの」
「目の前の出来事や目の前の人の良い側面にだけスポットを当てる」
そう決めてから、少しずつだけど、それができるようになっている気がした。
起きた出来事や与えられた仕事の良い側面にスポットを当てることを心がけて
関わる人の良い側面にスポットを当てるように心がける日々。
以前は自分が「今どんな気持ちなのか」を気にしたことがなかったけど、
今は自分の気持ちに寄り添いながら過ごせている。
心地良い気持ちになれる思考に意図的に自分を導いていくことを大切にしようとしている自分がいて、
そのことが嬉しくて、ぼくをさらに心地良い気分にさせてくれた。
「今日1日にあった感謝したいこと」も続けている。
(ありがたいことに・・・アーシャのみはりがあるからね。)
この短期間で、ぼくは変わった気がした。
気がしたんだけどね・・・。
ああ。(ため息)
『優くん、怖い顔して、どうしたの?』
ぼくはイライラしていた。
ものすごく、イライラしていたんだ。
「イライラする!!!』
といってぼくは壁にティッシュボックスを投げつけた。
バン!!・・・ドン!!
ティッシュボックスが壁にぶつかって落ちるのを見て罪悪感を感じた。
ぼくはぼくの行動によって、イライラはさらに加速させていった。
『わぁ。荒れているね。どうしたの?』
「ほっといて。」
『優くん、良い気分に切り替えないと。忘れたの?』
「うるさい。そんなのどうだっていい。
そんなことに意味なんてない。
くそくらえだ!」
ぼくは大声で怒鳴った。
アーシャに怒りをぶつけてしまった。
チラッとアーシャのほうを見ると、耳と尻尾をたらんと下にたらしてトボトボと歩いていってしまった。
ぼくはまた、罪悪感を感じた。
あんなに小さなアーシャに。あんなに可愛いアーシャに。なんてひどいことを。
ぼくの最低な言葉と行動に、さらにさらにイライラは加速していった。
勢いよく家を出たぼくは走った。
走って、走って、走りまくった。
そうすれば、イライラが振り払えるような気がして。
ふと、木に実る、小さな蕾に目がいった。
ふわふわの毛に覆われたハクモレンの蕾。
ここは、アーシャとの散歩道。
この前の散歩で、この蕾をさわって「気持ち良いね」とアーシャと顔を見合わせていた。
少しだけ、ほんの少しだけだけど、気持ちが落ち着いてきた。
「はぁはぁ。だめだ。疲れた。」
ぼくは公園のベンチに仰向けになって寝転んだ。
涙がポロポロと流れていく。
どうしてぼくはこうなんだろう。
ぼくはダメなやつだ。
空は、真っ黒な雲に覆われていた。
「ぼくの心みたい。」
ぼくはポツリと呟いた。
『優くん、自分を責めないで。』
「わ!!びっくりした!」
ぼくの様子を見にきたアーシャがぼくの顔をぺろぺろと舐めた。
『優くんはがんばっているよ。
思考や感情を心地良いものに導こうって、いつもがんばってる。
うまくいかない日もあるよ。
曇りの日も、あるよね。
雨の日だってあるし、台風の日だってあるよ。』
ぼくはまだ、アーシャにあやまる気持ちになれなかった。
あやまりたいけど、なんだか恥ずかしかった。
『曇りの日も雨の日も雪の日も嵐の日も
その分厚い雲の向こうには青空が広がっている。
青空こそが、空の本質なんだ。
雨は、いずれ止む。
嵐は、いずれ過ぎ去る。
雲は、いずれ消える。
青空は流れていくものを、ただ優しく見ているんだ。
そっと観察している。
青空は知っているから。
それらは流れていくものだということを。
優くん、覚えておいて。
優くんの本質は、この青空と同じ。
怒りやイライラや悲しみは
過ぎ去っていくよ。
流れていく感情なんだよ。
その向こう側にはいつも、優くんの本質があるんだ。
優くんの本質は愛なんだよ。
分厚い雲におおわれて見えないときだってあるかもしれない。
それでもね、空は必ず晴れるんだよ。
だって、それが本質なのだから。
ぼくは優くんの素晴らしさを知っているよ。
優くんだって、知っているはずだよ。』
アーシャの言葉を聞きながら、気持ちがやわらいでいくのを感じた。
怒りやイライラや悲しみはずっとここにはいない。
当たり前のことかもしれない。
でも、それを言葉にしてもらうと気持ちが楽になる。
ぼくの心の本質は青空であり、愛なんだ。
ぼくは深呼吸してアーシャを見た。
「アーシャ、さっきはごめんね。
ひどいこと言ってごめんね。」
ごめんねって謝ると、ぼくの思考が優しくなっていくのを感じた。
「お父さんと喧嘩したんだ。」
『そうだったんだね。』
「でも・・・お父さんにも謝るよ。
誤ったほうが気分が良くなるってわかったから。」
『うん。』
「自分は変われたって思っていたのに、全然ダメだったよ。」
『そんなことないよ。優くんは少しずつ変化している。
ゆっくりでいいんだよ。
お菓子作りだって、すぐにはうまくいかないでしょ。
失敗して、改善しての繰り返しで、なんどもなんどもつくって、上手になるでしょ?
それと同じなんだよ。』
「うん。」
『優くん、お家に帰ろう。みんな心配しているよ。』