プロローグ

 
ぼくの大好きな飼い主の優くんは、
いつもつまらなそうな顔をしている。
 
「未来に希望をもてないんだ。」
 
そんなふうに言っていたのを、この前聞いた。
 
ある日、お散歩をしていると、
優くんはまた、考え事をしてぼーっとしていた。
 
ぼくが、優くんの顔をじーっと見ていると、
それに気付いた優くんが、ぼくをひょいっと抱き上げた。
 
ぼくの目をじーっと見る優くん。
 
「アーシャ、こうして生きていてもね、虚しい気持ちになるんだ。
ぼくは幸せになれるかな?」
 
優くんの瞳のなかにうつるぼくは首を傾げた。
 
優くん、幸せってなあに?
ぼくがあげられるものならいいのに。
 
お散歩から帰ってきて、ぼくは
あぐらをかく優くんの足のうえで休憩をした。
 
優くんの温かい体温を感じていると
うとうととしてきて、いつの間にか眠りについていた。
 
するとね、突然、夢の中で声がしたんだ。
 
『アーシャ、アーシャ』
 
ふと気がつくと、ぼくはふわふわと宇宙に浮かんでいた。
 
『わたしの弟子になりなさい。
「幸せ」について教えてあげよう。
 
今夜、迎えをつかわせる。』
 
だれなんだろう。
 
『あ!
「うまや」の羊羹を
手土産にもってきてほしいたぬ。
 
もってこないと「幸せ」について教える気、
なくなるかもしれないたぬー!!
 
こっちの世界には「うまや」ないたぬよー。
絶対、食べたいたぬ。
 
アーシャの家のリビングの、お花や果物が置いてある戸棚にあるたぬ。
いちばん右の戸にしまわれているたぬよ。
 
よろしくたぬー。
 
・・・ごほん。
 
では、待っているぞ。』
 
ぼくは、ぱちっと目を開けた。
 
よくわからないけど、ぼくは優くんに
「幸せ」をあげることができるかもしれない。