プロローグ2 うまやの羊羹

 

あの戸棚に「うまや」の羊羹があるんだ。
 
ぼくも「うまや」の羊羹をひとくちだけもらったことがある。
「うまや」の羊羹は、ものすごーく美味しかった!!
お口のなかが天国だった!!!
 
ゆけ!アーシャ!!
すべての羊羹をうばいとり、自分の分もたっぷり確保するんだ!!

 

カリカリカリカリカリカリカリカリ!!
(戸棚の戸を引っ掻いて開けようとする音)

 

この戸棚は引き戸になっている。
戸を開けたい方向に。ものすんごい勢いで引っ掻き続けると
少しずつ戸がスライドしていき、少しだけ戸が開いてくれた。

 

そこには6個入りの「うまや」の羊羹がつつましく置かれていた。

 

よいしょ、よいしょ。

 

ぼくはうまやの羊羹を口で加えて、
ずるずると引きずりながら自分の部屋へと向かう。

 

少しすると、背後から声がしたんだ。

 

「アーシャ」

 

やばい。優くんだ。

 

「アーシャ、自分で戸を開けたの?
天才だなー。」

 

優くんがにっこりと笑って褒めてくれたから、
嬉しくなってぼくは「うまや」の羊羹を口から離し、
優くんのほうを見ながら尻尾をフリフリとした。

 

「天才だけど、これはダメだよ。」

 

優くんが「うまや」の羊羹をもっていってしまった。

 

「わん!わん!きゃん!きゃん!!(優くん、まって、それがないと「幸せ」を教えてもらえないんだ。)」

 

「アーシャ、声が高いなー。
吠えてもダメだよ。」

 

優くんには、ぼくの声が届かない。

 

ぼくは優くんに向かって走り出した。
優くん!!
その羊羹がないと!!
「幸せ」について教えてもらえないんだ。

 

床を勢いよく蹴って、ジャーンプ!!

 

「わっ!!!」

 

優くんのお尻に頭突きをすると、
優くんは驚いて、手から「うまや」の羊羹を離してしまった。

 

空中で「うまや」の羊羹の箱がパカっと開く。
1つ1つ色とりどりの包み紙に大切に包まれた羊羹たちが箱から飛び出し宙を舞う。

 

羊羹が地面に着地した瞬間、ぼくは1つだけ口にくわえて部屋へとダッシュした。
後ろからは優くんの声が聞こえる。

 

「アーシャ、だめー!!」

 

ぼくはその声を無視して、ぼくのベットの下に羊羹を隠した。
何も知らないふりをして。

 

「アーシャ・・・。
ベットの下に隠したのバレバレだよ。
羊羹が見えてる。」

 

ぼくはそっぽを向く。

 

「食べるわけではないの??
とりあえず、今は怒るから様子を見ようかな。」

 

ぼくと優くんの戦いは幕を閉じた。
ぼくは勝利したんだ。

 

夜になり、ぼくは羊羹を手で握りしめて眠りについた。
すると、また声が聞こえた。
次は、夢の外から。

 

『アーシャ、アーシャ』

 

目を開けるとそこには・・・

 

大きな龍がいたんだ。

 

『お迎えにまいりました。』